私は小さい時、父親から『英雄の空』という物語を聞いた。 私が生まれる前にあった戦争の時に実在した、戦闘機乗りの話らしい。 毎日少しずつ教えてくれる物語に私はすっかり虜になった。 父が語ってくれる、戦争の悲惨さや兵士の苦悩。幼かった私には少し難しかったが、主人公である『英雄』の活躍を聞く度に、心が躍った。 だが、物語も終盤に差し掛かった時、父は死んでしまった。 私は悲しんだ。 父死んでしまった事はとても悲しかったが、物語が聞けなくなると思ったら、もっと悲しくなってしまった。 しかし、父の死の悲しみが薄れるにつれ物語も記憶の奥底へと沈んでいった。 やがて、完全に忘れかけていた時、将来にやりたい事を見いだせず荒んでいた私は、公園のベンチに座り込んでいた。 そんな時ふと父の言葉が思い出された。 「空には夢が沢山ある。 思い悩んで下向く位なら空でも見ろ。」 空を見上げた私が見えた物は一機の戦闘機だった。 瞬間、体に電流が流れた。 何故あの話を忘れていたのか…私のやりたい事が決まった瞬間だった。 『英雄』を調べようと思った私は、軍事関係の情報を集めている会社に就職した。 調べていくうちに、少しずつ戦争の情報が集まった。 データを少しまとめようと思う。 2140年 世界が再び東西に分断。 2142年 関係悪化。地域紛争が多発する。 2143年 東西の代表が一回目の東西会談。冷戦状態に。 2144年 二回目の東西会談。地域紛争の激化。 2145年 三回目の東西会談中、東西の代表が殺された事により、第三次世界大戦勃発。 皮肉にも、第二次世界大戦終結の200年目だった。 ここまでは歴史の教科書にものっている。 しかし、重要なのはここからだ。 どの教科書も開始から終結までの18年が空白になっている。 つまり記録が残っていないのだ。 私も最初は苦労した、どの国も機密扱いで情報が公開されていなかった。 そんな時、一人の軍人とあった。 戦争中は東側陣営についていた、戦闘機乗りだった。 「戦争の事が知りたい? …物好きな奴もいたもんだ。」 彼は戦時中の様子を語ってくれた。 そして…ここから物語が始まっていく。 「そういえばあんた『英雄』を追ってるんだってな…。 俺も一度だけ奴と戦った事がある。」 私はこの出会いを神に感謝した。 「確か…戦争が始まってから、2、3年が経って東側有利になってからだな。 西側に『イシュタル』がついたのは…。」 『イシュタル』空軍傭兵団の名前である。 『英雄』が所属していたらしい。 「それが俺の…人生最後の戦闘だ。 忘れもしない…ヨーロッパの空を…。 哨戒任務の帰還途中だった。 飛来する、三つの敵影を発見した。 こっちは5機…行けると踏んだよ。」 ―――――― ヨーロッパの山間部を飛行する三機の戦闘機。 S2「こちらS2、敵機発見…機影5。 ビンゴだぜ!!」 S3「作戦はいつも通り…。 雑魚は俺とS2、メインはS1が撃破。」 S1「任せろ。各機散開、確実に撃破するぞ!」 S2「了解!ソーディアン2行くぜ!」 S3「ヘマするなよS2!ソーディアン3戦闘開始する!」 〜〜〜 B1「敵は3機だ…お前等は散開した2機にダブルチームで当たれ! リーダー機は俺が叩く!」 B2、3「了解。バルトチーム1ダブルアタック!」 B4、5「OK!バルトチーム2続くぞ!」 B1「加減はせんぞ…! バルト1…」 S1「反撃の狼煙を上げるぞ! ソーディアン1…」 S、B「アタック!!」 〜―――〜 S2「ダブルチームか…厄介だな」 S2の後ろを飛ぶB2&3。 先に動いたのはバルトだった、B2が真後ろを飛び、サポートとして更にB3が後ろにつく。 B2「俺に任せろ! あんな小鳥一撃で落としてやるぜ!」 無線で告げ、一気にS2との距離を詰める。 B3「待て!不用意に近付くな…!」 S2に向け、放たれるミサイル。 命中を確信したB2。 しかし、S2がバレルロールで回避する。 B2「な!なんだと…」 回避しすぐにB2の後ろにつく。 S2「グッバイ…小鳥ちゃん…!」 放たれたミサイルは確実にB2を貫き、爆散するB2。 B3「こちらバルト3! バルト2がやら…――!」 会話を遮る爆発音。 そしてレーダーから機影が二つ消えた。 S2「こちらソーディアン2、2機撃破!」 更に続く爆発音。 残った機影は一つ。 S3「ソーディアン3、二機撃墜!」 B1「どう言う事だ…俺の隊が一瞬で壊滅だと! ありえない!応答しろ!お前等! くそ!野郎はどこ行きやがった…上か!」 機首を上に上げミサイルを放つ。 しかしミサイルは空を切るだけだった。 B1「外した…!くそ!早過ぎる!」 必死にS1の後ろににつき、バルカンを打ち続けるB1。 B1「なんで当たらないんだ! 何!?」 突如視界から消えるS1。 気付いた時には遅く、既に後ろに着かれていた。 加速するB1、だが離れずにS1が後ろにつく。 S1「確実に撃ち貫くのみ…!」 放たれた2発のミサイル。 それは確実にB1の両翼をもぎ取る。 翼を奪われた者は墜落するのみ。 S1「ソーディアン1、敵機撃墜。 ミッションコンプリートだ! ソーディアン隊帰還するぞ!!」 〜〜――〜〜 「そのあと生き残った俺は、軍に戻らなかった。 だからこのあとの事を詳しくは知らない。」 これが『英雄』の初戦闘であった。 「俺が教えてやれるのはここまでだ。 だが俺も知りたいんだ…『英雄』の事を…。 軍人だった時の知り合いを紹介してやる。 だから、すべてわかったら俺にも教えて欲しい…『英雄』の生き様を…!」 ここまで教えてくれた彼は帰っていった。 数枚のメモを残して。 メモには住所と名前が書いてあった。 他にも『英雄』と戦った事がある人らしい。 全員から話が聞けるとは思っていない…。 だが、私は時間が掛かるがこれから彼等全員を訪ねてみたいと思う。 こうして私と『英雄』を結ぶ物語が始まったのだった。